株式会社アーキプラン

INTERVIEW

建築主とともにつくる。

アーキプラン
代表取締役・竹内邦雄

児童養護施設『恵愛』
理事長・丸山素香さん

「子どもたちが地域と関わりながら、落ち着いて明るく暮らせる、家庭のような施設にしてあげたい」―。その想いを、徹底したヒアリングと揺るぎない設計理念で実現したアーキプラン。子どもたちの笑顔を生み出す施設が完成するまでのストーリーを、児童養護施設『恵愛』理事長・丸山素香さんと、アーキプラン代表取締役・竹内邦雄が振り返る。

施設の概要について教えてください。

丸山
児童養護施設「恵愛」は、終戦直後に、現在の松代町仏教会、それから現在の更埴仏教会の前身であります埴科仏教会が、宗派を超えた社会福祉事業として運営をはじめ、本年で70年目を迎えています。

建て替えに至った経緯をお聞かせいただけますか。

丸山
施設の老朽化、小規模化による子供たちへのより家庭的な養護の充実を図るという国の政策、方針に適合するようにということで、全面建て替えとなりましたが、施設周辺が土砂災害危険区域に属しておりまして、同じ場所での建て替えが困難となり、移転を余儀なくされました。新しい施設の用途・子供たちの養育に適した場所をということで、2年余りの踏査を経まして、千曲市稲荷山のこの地へ移転改築ということで決定しました。

アーキプランと恵愛の出会いを教えてください。

丸山
今回の事業については、まず設計事務所の選定を行う必要がありました。その際に、長野県内で同じ種類の施設を建設した実績のある会社という条件の元で、入札を行いました。 アーキプランさんは、前年に同種施設を完成させており、児童養護施設の計画ノウハウと補助金申請にも精通していることからぴったりの設計事務所でありました。

どんな理念や想いをもって、設計を検討されましたか?

竹内
事務所の設計理念として常々考えていることが3つありまして、建物の規模・用途を問わずに、地域社会とつながる建築であること、社会性を持つ建築であること、もうひとつはそこを使う人々の喜びに応える建築であること。これらを設計の理念として普段活動しています。 今回の敷地はかなり広大でして、ここに児童養護施設をどのように配置するかという配置計画が、建物全体の佇まいを決めると思いましたので、そこをまずは丁寧に考えました。あとは新たな場所、地域との関わり合いが積極的に生まれるような場所づくりについても思案しました。
丸山
今までいた松代では、地域の皆さんとの交流が活発で、お祭りや学園祭、お年寄りとの給食会などを催してきました。新たな施設では、例えば子育てに悩みを抱えている親御さんや、非常に子育てが困難な状況の方々が、気軽にここへ相談に来て、一緒になって地域の子供たちを育てていく拠点になればという想いがあります。
竹内
地域の子育て支援施設としての役割も期待されているというお話でしたので、洋瓦の緩やかな勾配の寄棟屋根と、明るい色の外壁で子ども達が親しみやすく、かつ地域のシンボルになるような、印象的な外観を心がけました。

スマートかつ落ち着いた佇まいながらも、その存在ははっきりと感じさせる、文字通りシンボルになりうる建物だなと感じました。その他にも設計のポイントはありますか?

竹内
はい。外部の設備機器や階段を、ルーバーで隠して、施設的なイメージを出来るだけ排除するように努めました。また内部空間は、〈家庭的〉というキーワードが丸山理事長から出ていましたので、一般住宅で使用される建具や内装材を選定し、自分の家にいるような、家庭を感じることができる環境となるように配慮しました。
ひとりひとりに専用の収納や物干しなどを設置して、より落ち着いた生活環境を整えるとともに、天井の要所要所にステンドグラスをあしらって、暮らしの場所であると同時に、豊かな感性、創造性を育む場所にもなるように設計しました。

設計の段階から、職員や子どもたちからヒアリングはされたのですか?

竹内
そうですね、設計の途中でもだいたい1週間~2週間に1回のペースで、打ち合わせを行い、お互いの想いを共有することはもちろん、例えば宿直室から子供たちの出入りする様子が見える窓の大きさはどれくらいか、とか、施設内に設える家具や、棚のサイズはどうしようか、という細やかな部分も相談しながら進めていきました。

打合せの数に比例して、理想の施設に近づいていくという感覚ですね。

丸山
はい。その打ち合わせも、幼児担当、学童担当、管理部門、調理担当などといったそれぞれの担当とも個別に打ち合わせをしまして、より具体的で、働くイメージ、暮らしのイメージが湧くような形で進めていただいたと思っています。
竹内
給食、食事の作り方については、結構議論を重ねましたよね。
丸山
そうでしたね。
竹内
長野市内にある他の施設では、ユニットが独立して住宅のように、バラバラに建っているところがあって、小舎制という面からすれば理想的な形なんですね。しかし、日々の食事に目を向けると、各ユニットで買い出しから調理まですべてやらないといけないわけです。そうなると職員の負担がかなり大きくなるんですね。子どもたちと一緒に遊ぶ時間も少なくなってしまう。
丸山
そこで、家庭的な養護という視点から考えて、食事を作ってもらうのではなく、食事も一緒に作る、お手伝いをするということが出来ないかなと思い、竹内さんに相談したんです。
竹内
惠愛さんの施設は、長野市の施設と同様にユニット形式ではありますが、食材については共同で仕入れて、ユニット毎に分配するという形にしました。ある程度下処理をした食材を各ユニットに配って、あとはそれぞれでご飯を炊いたり味噌汁を作ったり、子供たちにも手伝ってもらって家庭的な雰囲気で食事を作る。
丸山
厨房で作られたものが食堂へ運ばれてきて、という従来の食事の流れでは、子供たちが何をどうやって作っているかを知る機会がありませんが、今の流れであれば、調理をしていると子供たちがああそうやって作るんだって覗きに来たりですね、お手伝いをしたり。そういう動きが少しずつ始まって、良い効果が出てるのかなと思っています。
竹内
あとは省エネですね。本来は、電気・水道のメーターは建物全体でひとつでいいんですが、惠愛さんの場合は、メーターを各ユニットごとに設置しました。そうすることで、子どもたちが良い意味で競い合うんです。自分のユニットの光熱費はこれくらいだけど、あっちはもっと少ない、とかね(笑)。そういう、互いの数値を知ることで節約という意識が根付くんですね。
丸山
快適な暮らしには、それなりにコストも掛かるんだよっていう、金銭的な感覚も養えるんじゃないかなと。子どもたちが自立して巣立っていく時に、そういう節約や金銭に対する感覚がしっかり整っていればという想いもあります。

かなり密接に双方がコミュニケーションを取った結果、理想的な施設が完成したように感じられます。完成までのやり取りの中で、一番印象深いエピソードはありますか?

竹内
最初に丸山理事長とお会いしたのは、建設予定地見学の時でしたよね。
丸山
そうでしたね。ご同行頂けるというお話で、大変心強く感じたことを覚えています。私たちの視点と、設計を担当する方の視点では、見るもの、感じるものが違うでしょうから、お互いが見て感じたことを掛け合わせた時に、どんなものが完成するのだろうという期待がありました。やはり素人ですから、図面だけ見ても、どうしてもイメージが出来ない部分はありますからね。直接お会いして、設計に対するアーキプランさんの姿勢を直接感じたことが、この施設の成功にも繋がったんだと思っています。
竹内
嬉しいですね。こういう言葉を直接お聞かせ頂く機会ってあまりないですからね。
丸山
設計の前に、福井県でしたっけ?行きましたよね。
竹内
そうですね、施設の視察に、ご一緒させて頂いたんですよね。
丸山
私どもが目指しているような施設が福井県にありまして、その視察に職員と出掛けたのですが、竹内さんにもご一緒頂いたんです。
竹内
あの視察で、お互いが向くべき方向というか、イメージの共有は出来ましたよね。
丸山
そうでしたね。実際の建物を目にすることで、一気にイメージが明瞭になったんですよね。竹内さんにも色々とその場でご相談したり。あの視察にご一緒頂いたことは、非常にありがたかったですし、良かったなぁと思うエピソードですね。

子供たちや職員のみなさんから聞こえてくる声はどうですか?

丸山
とにかく子どもは、新しくてきれいで非常に喜んでいます。ユニットごとに個室が与えられていますので、“今日は自分の部屋の模様替えをするんだよ”なんて嬉しそうに言う子どももいて。非常に落ち着いて生活をしてるようです。
学校が変わりまして、全員転校したんですけど、当初は非常に心配する声も聞こえてきました。以前は不登校気味の子もかなりいたんですけど、今回移転して、新たな施設で暮らすようになってからは、全員がきちんと通学し、お友達も遊びに来るというような、充実した学校生活を送れています。私の予想以上に子どもたちは落ち着いて明るくなり、笑顔も増えたんです。
竹内
それは非常に嬉しいお話ですね。治田小学校がすぐ隣りにありますからね。中学校も近いですし。そういった意味では非常に利便性が高まって、通学のストレスも減ったのでしょうね。
丸山
きれいで明るくて、私どもの想いを実現して頂いたこの新しい施設で、子どもたちには、伸び伸びと生きて欲しいと思っています。